バックボーン

{冬景色の青森駅西口。}
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料理を食べる上で、自分の目の前に置かれた料理をより一層美味しく食べるためには、ある程度の薀蓄・講釈が必要になるものでしょう。
味だけを判断するということであれば、知識や技術の類の物の話は特別必要としないかもしれません。
けれども、どうせ食事を楽しむのであれば、食材・調理・歴史・技術論・道具話などなどを知っている方が、その食事を何倍にも楽しむことが出来るでしょう。
外食をするということは何重にも渡って複合的に楽しむことが出来る数少ない人生の娯楽です。
料理・飲み物・サービス・器・調度品・時間・会話・雰囲気などなど幾つもの物・事が重なり楽しむ事が出来ます。
その数が多ければ多いほど楽しむことが出来るし、少なければ少ない程、ただ単に空腹を満たすだけの時間となってしまう事でしょう。
とあるお店で見かけた場面になりますが、コース料理専門のお料理屋さんで、カウンターで一人のお客様が、料理が出てくるまで、ひたすらスマートフォンにしがみつき目の前で板前さんが料理を作る姿も会話も興味を表さず、料理が出てくれば食べて終わればスマートフォン、出てくれば食べてスマートフォン。というような行動を繰り返し、終わればお勘定をして帰ってしまった。という場面に遭遇し「んん~。味気ないな。勿体無いな。何しに来たのかな?時間が無駄だな~・・・・。」と感じたものでした。
勿論、人それぞれ時間の使い方金銭の使い方楽しみ方は自由ではありますが、せっかく料理屋さんに出向いて場も雰囲気もサービスも何にも興味を示さず、出来た料理を食べて帰るだけというのは、料理を家業にしている自分からは「全てが勿体無いな~。」と思うものです。
料理屋・レストランというものは人類の文化そのものです。
政治・経済・宗教・歴史などのしがらみ・矛盾などをその場に持ち込まなければ、最大の娯楽だと感じます。
出来るだけより多く料理屋で楽しむ為には、知識・経験が必要です。が、全ての要素を楽しめなくてもどこか一つだけでも楽しめれば興味があれば、料理屋・レストランは大人の時間を楽しむにはこれ以上の場所は無いと感じます。
食材・調理・料理の歴史・道具類・味付け・器・サービス・お酒類・プレゼンテーション・会話・調度品・清潔感・雰囲気・お店のコンセプト・調理人やお店のスタッフの人柄などなど、どれ一つとっても話は尽きないしネタも尽きる事がありません。料理一つが出来上がるまでの物語も突き詰めると事細かく語る講釈があるものです。
{2~3月頃の仕込から。水蛸吸盤・北寄貝・ホタテの卵・河豚・ヤリイカなど}
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先日、輪島塗の職人さんのお話を拝見していて、蒔絵を施すときに使用される筆は通常猫か狸の毛が多いが、ネズミの毛が細い線を描くのに最も優れているそうです。ところがその毛を入手するには期間限定のクマネズミかドブネズミの毛の特定の部分だけを集め、しかも十匹で一本の筆しか作る事が出来ないと言う事です。ところが自然の減少でネズミが手に入らず、輪島塗の職人さん自身がネズミを飼って育ててみたり、中国にネズミ探しに奔走してみたりしても、なかなか昔のようないい筆を作ることは出来ない。という事でした。
一本の線を描く為に、毛にこだわり筆を選別する。それが職人技です。
また、刀鍛冶の職人さんのお話で、いい刀を造るには鋼を焼く温度が重要で、その温度を見極めながら刀造りをするそうです。その適正温度は700~800度の間の20度前後で、それを経験による目視で判断するそうで、鋼の焼けている色を見ただけで鋼の温度を把握しているものです。
温度計も科学的な機械も道具も無い中、先人達は経験からそれを導き出し、体で覚え仕事をこなしているものです。
科学的な視点からも伝統工芸で培われる技法が適正であると証明されていて、ある大学の先生がその職人技を賞して「伝統技術が最先端技術。」と賛辞を述べ現代科学以上に職人の技や経験が優れている事を認めているようです。
和食で温泉卵を作るときのお湯の温度や天麩羅を揚げる油の温度なども、熟練された職人は温度計なしでそれらの仕事を意図もたやすくこなしてしまうものです。職人は特別「何度!」と計っているわけではなく、経験から美味しく出来上がる温度を体で覚えているだけで、科学者が測ってみたら「何度だった。」というようなことでしょう。
我々和食の料理人は漆職人が作った御椀を使います。包丁鍛冶さんが鍛練した包丁を使います。しかも何種類にも渡って、季節や食材に応じて事細かく使い分けます。
塗り物・包丁一つとっても色々な話があり、知識・技術・歴史や食材・調理道具などなどを含めると何十何百と話が尽きない物・事を取り扱って仕事をしています。
食材では自然・環境、個々の食材の特徴を把握し、食材を生産する農家さんや漁業者さんの活躍があり、包丁やまな板鍋釜を調理道具を作る、調味料を作る、お酒類を造る、器類を作るなどなど色々な職人さん方々の仕事が有って始めて成り立ち、それを料理人が複合的に選別し集め手入れし料理屋という空間時間を作り出しているものです。
{冬の津軽平野産ブロッコリー。寒くて大きく成らない為一本一本が一つのブロッコリー。}
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どんな事でも前もって下調べ・知識・経験などなどがあれば、何も無いよりも数段時間を有意義に楽しめるものです。
旅をする時でも、無計画で行き当たりばったりで、初めて訪れるその土地の事を何一つ調べず知らず行って見てから「どこ行こう?何有るんだろう?何食べれるんだろう?」と旅先で何かの情報で調べてみて行ってみたり問い合わせしたら、満席だ。休みだ。予約しないと入れない。その観光地は交通が不便。数時間に一本しか電車が無い。今からでは間に合わない。来てみたら色々見る所周れるところがあるのに、時間が足りない。時間の予定が立たない。それから後日自宅に戻ってから、知り合いやテレビの話で「温泉がすばらしい!この観光がお勧め!そこに行ったらこの店ははずせない!」などと情報が舞い込んできて「失敗したな~。」という経験をお持ちの方々も居られるかもしれません。
特に昨今はネット情報・グルメガイドなどの情報の氾濫により、土地の人も旅人も人気の飲食店は「その日にふらっと・・・。」という様にはお店を利用できなくなってきました。勿論、計画なしの気ままな旅もいいのですが、ご時勢柄飲食店と宿泊場所だけは前もって決めてから旅行される方が時間のロスもなく、楽しい旅行が出来るものでしょう。
知っているのと知らないのでは大きな隔たりが生じます。
旅をするのも料理屋を楽しむのもそのほか色々な知識を身につけている方が幅広く楽しめます。
けれども、幾らインターネット・マスメディアで色々な情報が撒き散らされていても、その道の本職の方々から見ればほとんどその情報は僅かなものと感じるものでしょう。
飲食店の情報も巷にあふれている事は、実情に比べ極僅かなものです。特に単価が上がる料理屋やレストランクラスの薀蓄はほとんどの方々は目にすることも耳にする事も無いでしょう。
料理屋の仕事のほとんどは開店前に済んでいるものです。営業時間と同じ時間仕込み・清掃・片付けなどがあり、その時間はお客様が目に触れることは有りません。料理屋で働く職人さん方は一日の三分の二は厨房で働いているものです。ところがお客様によっては飲食店は営業時間しか働いていないと勘違いされる方も多いものです。
実際お客様がお店を訪れ目にする部分は、料理屋レストランに限っては仕事の一割程ではないでしょうか。
出来上がった料理に必要な環境・生産者・道具・プロセスなどは目に見えるものでは有りません。決してお客様には見える部分でもない細部にまで仕事を施すのが優れたお店優れた職人です。けれどもその出来上がったお店・料理に見え隠れする職人の技・知識・哲学などが感じとったり想像する事が出来れば、料理屋は大人の最も楽しめる娯楽になると思います。
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{冬時期に出荷されるボーペイサージュ蔵出しヴィンテージ。}

ヤフーブログ‘食の桃源郷 青森’もご覧ください。
ライブドアーブログ‘世界に誇れる青森の郷土料理’もご覧ください。
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by tk-mirai | 2016-01-30 20:47 | Comments(0)

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