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ストライクゾーン

{南八甲田山の和田ダム。}
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サッカーのゴールや野球のストライクゾーン、百メートル走のタイムやマラソンの距離、試験の合格点や赤点
などなどは、明確な幅や高さ、時間や点数など目でも見える明確な数字やストライクゾーンが存在するものです。
ところが、料理の味わいというものには、目で見える判断基準も明確な美味しさの数字なども存在するものでは無いでしょう。
作り手・食べ手の色々な要素が絡まり、経験・知識・食に対する執着・食歴・持って生まれた味覚・感性・訓練度・普段の食生活などなどによって、「美味しい。」と感じる要素は十人十色なのではないかと思います。
料理の話というものは、政治や経済、宗教や個人の抱える問題などとは無縁なもので、社会の中で人を傷つけない類稀な御題の一つであります。
経済的な要素・社会的地位、人種の違い言語の違いなどがあっても、食べ物の話というものは和気藹々とその場を取り持ち、心を豊かに和ませ、憎しみや葛藤を生まない優れた存在です。
そこには明確な点数やストライクゾーンが存在しないからかもしれません。
ほとんど多くの食べ物の話題は、そこにいるメンバー全てが知っている経験している料理の話になる事が多く、高額な食材や高級料理の話になると経験者だけが知っている話で、未経験の者にはチンプンカンプンの話題になり、共有できる語り合えるお題ではないのですから、一言二言で終わってしまい結局は同じレベルの食べ物の話に終始する事になる為、争いごとが起きないものでしょう。 
食べ物で争いがあるとすれば、飲食店で起こるお店側とお客様側の味や料金へのクレーム、「こんなもの不味くてくえるか~!」のお客様の声に自信過剰の料理人が「何だと~!」といがみ合う光景や、妻の愛情が足りない料理と言ってちゃぶ台をひっくり返す頑固親父ぐらいなものでしょうか?昨今は外食産業は既製品ばかりでクレームのつけようが無いですし、家庭では料理を作ることも少なくなっているのでそんな事ももう無いかもしれませんね・・・。
{下処理を施した、天然活締めの魚達。平目・ゴマ鯖・環八・真鯛。}
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料理や味の話題を通してよく起こる現象が「好みだから・・・。」という玉虫色の言葉で、今まで話し合っていた話題がまったく面白みも無く終わってしまうという状況が時折見られる事があります。
「好みだから・・・。」という言葉で、盛り上がっていた話題も一瞬のうちに終止符がつけられ、後は話しようが無い環境に引き込まれていってしまうものです。
その言葉の意味するものは不戦の誓いのもののようで、これ以上は相手とその話題を避ける有効な一手となるようです。  
井戸端での話題であればそれは当然有効な手段ですが、自分のように味を職業にしている者にとっては、その一言は曖昧で答えを出す必要が無い、世間一般での話となります。
我々飲食業に携わるものは、スポーツやテストのように明確にストライクゾーンを作り、自分の中での料理にハッキリと答えを出さなくてはいけません。それをしなければお客様に料理を伝える事も、自分の料理を作る感性の障害ともなります。
自分以外の方には目に見える正確なストライクゾーンではないし、数字や言葉で表しても相手に本質は伝わる事はないものですが、自分自身の中で「美味しい。」という物指しをしっかり持って作らなければなりません。
そしてそのストライクゾーンは、経験・訓練・執着などによって、縮みも広がりもし、分厚くも薄っぺらくもなるものです。それ以上に必要な要素が持って生まれた感性、遺伝子レベルで受け継いでくる個々の味覚の鋭さ・体質によるところが非常に多いものだと思います。
合成調味料・保存料・香料などの添加物などを食べ分けれる人そうでない人。
養殖か天然か、野締めか活締めかを食べ分けれる人そうでない人。
タバコを吸っていても酔っ払っていても味が分かる人、その逆でもまったく味覚が鈍い人。
などなど、色々な方を普段から目にする機会は多いほうですが、「美味しい。」というものにはある程度の明確さが有るもので、「好みだから・・・。」という一言では片付ける事が出来ないものです。
{自家製鰊漬け。}
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ワインやコーヒー、お蕎麦などは人気が高く、多くの方々が話題に参加でき、その情報も桁違いでテレビや紙面を賑やかにしている為、薀蓄が優先し、味わいよりも講釈・話題を優先する向きがありますが、それだけにその味わいに流行り廃りも多いようです。
この頃経験するのは、ただ酸っぱいだけのコーヒーを見かけ、聞くところによるとそれが持てはやされているという事らしいです。十数年前に「背脂たっぷりラーメン」が流行ったのと同じようなものでしょうか?
日本酒の方では、ここ二十年で醸造方法が飛躍的に底上げが進み、格差を感じさせないほどに全国どこに行っても‘美味しいお酒’。所謂誰が飲んでも「美味しいと感じる」売れる‘優等生のお酒’が目に付きます。
革新的な異端児的な、美味しさの改革、味覚のストライクゾーンを広げ個性ある美味しさを求めるものにとっては、その様な流れは同調しかねるものでしょう。
酸っぱくても美味しいものはありますし、苦くても美味しいものもあります。甘くて美味しいものもあれば辛くて美味しいものもあります。と言うように味覚の方向性が違っても‘美味しい’と言うものはあるものでしょう。
けれどもただ「酸っぱい!」だけ、ただ「辛い!」だけというような旨くもないものが時に流行るときがあるものです。
そこには‘美味しさ’とは無関係に、売りやすさ・話題性・マーケティングなどが優先し味覚の基本や土台を無視した商売が優先されるようです。
売る方は個性があるほうが単純明快で訴えやすいですし、話題も作れます。そして美味しさとは個人の趣向で曖昧で最後には「好みでしょう。」と身をかわして責任回避も出来るでしょうか・・・・。
{手前・奥が長芋畑の紅葉。生産量日本一の青森県南部方面の至る所で見れます。}
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職業柄、日本酒・ワインなどのお酒類と接してきて感じる事は、本当に美味しい日本酒は日本で消費されるし、輸入ワインは何番手が来ているのか知らされてはいない。と言う事でしょうか。
日本料理や日本酒の味を真に理解しているし、美味しい日本酒をしっかり押さえているのは日本人。フランスワインを理解しいいところを押さえているのはヨーロッパの貴族の皆様方。五大シャトーだDRCだと言ってもラベルが同じだけで「どうせ日本人にワインが分かるはずは無い。」と中身は余り物が輸入されているかもしれません。海外ニュースでは日本人から見れば「それはどう見ても日本料理ではないだろう。」という食べ物が大手を振って外国では消費されています。
ウイスキーの世界でもそういう世界が存在する事をここ数年で覚える事が出来ました。特に今年に入ってから盛岡のお客様からご指導を頂き、日本で一般流通しているスコッチと会員しか買えないスコッチには中身に大きな格差がある事。そしてその会員でさえ買えないスコッチが現地には存在し、幾ら会員向けスコッチでも日本用の輸入物と本場現地用には格差があり、スコットランドでしか買えないスコッチはめったに味わえない事。その現地物のスコッチをいただいた時には味覚のストライクゾーンを広げる事が出来ました。ウイスキーの世界は‘マッさん効果’と中国人の「買い」が始まり、オールドヴィンテージ物には一本一千万も付くものも出始めたそうです・・・・・。
食べ物の業界は、フラット化が進む一方です。‘売れ’が先行しそれだけに、ストライクゾーンが狭いものです。
美味しく個性的な味わいにはなかなかお目に掛かる事は出来ません。美味しくなく個性的な味わいは出会う機会は多いでしょうか・・・。
美味しさと好みは別物です。濃くて美味しいものや淡くて美味しいもの。とただ濃いだけやただ薄いだけのものは別物です。ワインやコーヒー、ラーメンや日本酒など趣向品と呼ばれるものによくこの現象は見られます。
多くの人が「美味しい」という優等生のストライクゾーンの狭い味。それから味覚の幅は広げてはくれるのだけどただ酸っぱい・ただ辛いというように美味しさを外れてしまった味覚のものしか流通していなく、なかなか先進的な味わいを求める事は出来ないようです。
‘美味しさ’を外さず、異端で先進的で個性的でチャレンジャースピリッツを感じさせる味わいはストライクゾーンを広げてくれます。そしてその味わいが新しい味覚や価値観、人との付き合いの世界を開拓してくれ個々の人間性の幅をも広げてくれる可能性を秘めていると感じます。食事を時間を楽しむ為に味覚のストライクゾーンを開拓いたしましょう。
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{左三本が現地販売。日本に一本ずつしか無いらしい。右四本が日本向け会員購入モルトスコッチ。}

ヤフーブログ‘食の桃源郷 青森’もご覧ください。
ライブドアーブログ‘世界に誇れる青森の郷土料理’もご覧ください。
by tk-mirai | 2015-11-26 20:01 | Comments(0)

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