汁もの

{花より団子を卒業した方へお勧めの桜の名所浪岡城跡の一角。}
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お料理の中で一番優しい料理って何でしょう?
揚げ物?肉類?刺身などの生もの?焼いたもの?炒めたもの?煮たもの?蒸したもの?ご飯もの?パスタ?麺類?サラダ?・・・。
自分事で申し訳ありませんが、いつの頃から知らず知らず汁物が一番のご馳走になったものです。
基本の豆腐とわかめの味噌汁、そばつゆさえあれば即席で作れる納豆汁、筍と揚げの味噌汁などなどを始め、具沢山の豚汁や具よりも汁がメインの蜆汁。鳥牛蒡を利かせた醤油味の汁物。活締めした鯛や河豚を使った潮汁。ジャガイモやトウモロコシを使ったポタージュ類。コクがありながらもクリアーなコンソメスープ。野菜をたっぷり使った中華風のスープなどなど、汁物が一番自然に体に染み込み、一番優しいお料理だと感じます。
十代の頃は汁物をそれほど気にも留めず、料理についても世間知らずで汁物は興味も評価対象にもならなかったでしょう。
おかず類やご飯の合いの手やムッツイ(喉つまりする感じ)のを緩和するための、潤滑油のような存在にしか思っていなかったかもしれません。
ところが、今では汁物が無いとか定食やらホテルなどの宿泊施設のご飯のお椀物が少ないと「何で汁物がこれしかないのかな?」と寂しい気持ちになるものです。
板前修業をして6~7年ほどたった頃でしょうか、毎日朝から晩まで厨房にこもり、料理を作り続け、味見を何度と繰り返していると、自分の作った料理は食べたくなくなるし、その頃には肉類も進まない、刺身類などの生ものは飽きてしまってもっと進まない、昼過ぎの3時位の賄いは、いつの頃からか炊きたてのご飯に、具沢山の汁物と美味しい漬物があれば充分となりました。
決して焼き物や煮物、揚げ物や肉類が嫌いなわけではありません。何でも好き嫌いなく食べるし食べれるのですが、一番スムーズに抵抗無く、あっさりと優しくほっとする味わいのものは汁物ということでしょう。
{南部の郷土料理から。ウ二と鮑を贅沢に使った‘いちご煮’。}
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生き物に必要な要素のトップクラスに水があります。
水がなければ生物は生きていけません。それだけ、水分は重要なものです。
我々料理人が不思議に思うのは、コース料理を仕立てるには丸一日、もしくは数日掛けてせっせ、せっせ朝早くから仕入れをし仕込みをし、時には休憩も飯も食わずに料理を作って原価も手間も時間も掛けても、料理でお客様にご請求できる金額はたかが知れています。
けれども、酒屋さんに電話一本注文して届けてもらって、お客様からご注文いただければ、アルコール類、特にワインなどは栓を開けるだけで料理と同じくらいのお代をご請求できたりそれ以上のこともあります。しかも手間隙かからない分、料理よりも利率がいいものです。用意するのは、グラスとソムリエナイフだけでいいでしょう。
友人知人・会社の同僚方との外食も「飯食いに行こう!」というより「飲みに行こう!」と声を掛けるほうが圧倒的に多いでしょう。多くの方々にとっては、外食はどちらかというと食べることより飲み。アルコールがメインのようです。
それだけ知らず知らず液体類、つまり水分を欲する方が心身ともに抵抗なく受け入れられるのでしょうか?
ブランド化したワインや日本酒・焼酎は、何万円もの市場価値があるようで、「液体にそれほどの価値があるべが?」なんて思うこともありますが、水物に料理は敵わないようです。
都心の一等地で何皿ものコース料理をお勧めしても、いくらがんばっても料理では十万円が頭打ちでしょうか?けれども、お酒はワインはその存在価値が中身に関係なく何十万、時には百万を超える値が付きます。
もしかしたら、我々料理人が作り出す料理には何の価値も無いのかもしれませんね。
{汁物替りとして。天然笹竹・天然わかめ・天然ふぐの小鍋仕立て。}
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若いうちは獣のように、肉を頬張り、硬いものもバリバリ食べれて、スープ類などには目もくれず、ムシャムシャガツガツ食べ、のどつまり防止や、口の中にゴロゴロある食べ物を流す程にしか汁物を口にしないかもしれません。
ところが、年を重ねるごとに食べる量も食べれるものも少なくなるにつれ、汁物がスルスルサラサラと抵抗無く、静かに落ち着いて口に出来るようになるでしょう。
自分は汁物が好きなので、出来ることなら外食するときは汁物をメイン的存在として楽しみたいものです。
ですから、「いついつ行くから、汁物を作ってくれませんか?」と洋食屋さんのシェフにお願いすると、「んん~・・・。ワイン飲むでしょう?ワインがあればスープはいらないんじゃないの?液体同士は合わないんじゃない?ワインがスープ代わりでいいんじゃないの?」などと言う声を聞くことが時々あります。
洋食に造詣がない自分は「そうなのかな~?」なんて思ったりしますが、和食というか津軽の汁物には‘けの汁、鱈のジャッパ汁、蜆汁、アザミの味噌汁、干草汁(大根菜っ葉を干して乾燥させたもの)、ずき芋汁、キノコ汁’などなど、日本酒にぴったりな汁物が沢山あります。お酒とのマリアージュが最高です。
「寒い寒い外の猛吹雪の中、暖かい店に入って、熱燗に温かいジャッパ汁をいただくのがいいんですよ。」というベテランの皆様方のご意見もお伺いいたします。
ですから、自分の店でも汁物を美味しく召し上がっていただくように、お出しする順番や内容に気を使います。しかも当店でしかお勧めしないような汁物を、どこの料理屋でもやっているようなカツオ出汁で具材が見栄えを優先する仕事ではなく、シンプルでいながらじんわりと、自然と体に馴染み優しく奥底からふつふつと込み上げてくる様な青森・津軽ならでわの汁物をお勧め出来ればと工夫をしております。
料理屋料理の椀物を当店に期待されても満足させることは自分には出来ないかもしれません。
二十代半ばまでは、料亭・料理屋周りをしていたので、牡丹鱧や身丈ものの椀だねなどの椀物も作ってきましたし、たまには当店でもお出しすることはありますが、当店ではほとんどはカツオと昆布の出汁の椀物ではなく、素材に適した汁物、素材の味がストレートにする汁物をお勧めしております。
{小吸い物として。陸奥湾生コノコ(なまこの卵巣)と津軽海峡天然若布。}
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料理屋の基本は‘椀・刺し・焼き’という様なもので、汁物・刺身類・焼き仕事がメイン的な役割をするものです。もちろん、和食は総合的な食事なので、洋食のように「メインはこれ!」ということはなく、皆様がどう感じられるかは分かりませんが、椀・刺し・焼き以外のものもすべてメインといってもいいでしょう。
椀・刺し・焼きがコースの緩急の山場的な要素があるのでそのように表現するのかもしれません。
二十代の頃、仕事で数軒の料理屋で働き、料理屋も食べ歩き、「どうしてどこもかしこも具が違うのに椀物はカツオと昆布の汁ばかりなのだろう?時には、鱧や鯛のアラで取った出汁の椀物も出会うけど、ほとんどカツオ昆布なのはどうしてかな?」と考えた時期もありましたが、和食の業界ではカツオと昆布出汁が王道でオールラウンダーというのが常識のようです。
天邪鬼な自分は、あまりそのように思うことはなく、素材にあわせて出汁は使い分けるのがいいと思っています。ですから、和食の世界で言う一番出汁を使うことは稀で、一番と二番の複合的な出汁を取ったり、煮物に使うのか?汁物に使うのか?どんな食材に使うのか?など用途で出汁の種類や出汁の引き方は変えるものです。
南茅部の献上昆布や羅臼や利尻の上物、血合い抜きのカツオ節などを使っているので、一番出汁の汁を出すのもいいのかもしれませんが、もっと料理を津軽らしくするために、陸奥湾の鰯の焼き干しを一番出汁的な存在で多用しております。そのほうが原価もかかりますが・・・。
出汁というものは、複合的なものです。もちろん主役になることもたまにはありますが、料理の土台や素材の底上げの役割をするもので、自分の位置づけとしては、他の食材と同等なものです。
料理番組のアナウンサーが「出汁が命!」だか「命の出汁!」と表現していて、さも和食の最重要素は‘出汁’。と一般の方々が誤解するような表現をされたのを見て「ちょっとね・・・。」と思うものです。
‘フレンチにワイン、中華に油、和食に水’と表現されるように和食に限っては一番の重要要素はお水です。
お水が一番の出汁で調味料。一番の洗剤です。カツオや昆布、煮干や焼き干しなどと合わせて出汁を作る中核の存在ですし、野菜や魚、鍋や食器類の汚れや不必要な要素を洗い流す不可欠な存在です。
ですから、和食の命という表現をするならそれはお水でしょう。
お出汁は食材の複合物の存在で、カツオと昆布で出来上がった結果の出汁が命なのではなく、そのもっと手前の水や食材がお料理には大事なものです。
お腹が一杯になったとき、酔っ払って二日酔いのとき、暴食して喉詰まりしたとき、喉がカラカラと渇いたときなどなど、何と言っても一番の汁物は水であり、水が一番のご馳走でしょう。
料理人が朝からせっせ、せっせとどんなに頑張って椀物・汁物・スープをこしらえても、美味しい水には敵いませんね。
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{秋の津軽のご馳走。ずっぱど(沢山)天然なめこの醤油仕立て。}

ヤフーブログ‘食の桃源郷 青森’もご覧ください。
ライブドアーブログ‘世界に誇れる青森の郷土料理’もご覧ください。
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by tk-mirai | 2013-04-17 00:45 | Comments(0)

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