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布教

{今シーズン一番の津軽海峡三厩産本マス、4.2k。今年は大荒れの天気でこの手は皆無に等しかったです。}
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料理という仕事に携わり、料理人としても飲食店の経営者としても、自分自身がお客となり料理を食べる立場に回っても、外食をする時に一番大事なことは、自分自身に純粋無垢の状態で食事が出来ているかどうか?
テレビ・雑誌、グルメガイド・ネットの情報などに左右されず、自然と無意識の中で目の前の料理をリラックスした状態で味わっているのかどうか?がとても大切なことと思います。
もちろん、人それぞれ、お求めになる料理・サービス・お酒類・お店の作りなどなど、視点や感覚、満足するチャンネルは違いますので、テレビに出たという流行だけをお求めになって喜ばれることもよろしいでしょう。グルメガイドや料理評論家さんが推薦したお店に「行ってきた。」という話題をお求めになるのも楽しいものでしょう。
それでも、料理を生業とする自分がお料理で一番大事なこと、飲食店として一番大事なことは、ただ単に料理がそのお店の一番の売りで、お料理がまず美味しいことに尽きると思います。ところが、なかなかそのようなお店は少数派です。
その後、そのお料理をもっと美味しく食べる付加価値として、お酒類・サービス・プレゼンテーション・店構えなどがプラス要素となるわけで、長く営業をなさっているお店は、はやり味が第一番と励んでいるものでしょう。
自分も若かれし頃は、お恥ずかしい話ですが、中身やお酒の種類などに関係なく、綺麗なお姉さんが隣に座ってくれるお店にお邪魔したものです。ところが、23~24の頃には、お姉さんと一緒に過ごす時間にお金を使うより、美味しいお酒や美味しい料理をゆっくりとゆったりとした空間・時間で過ごすほうにお金を使うほうが贅沢で有意義と思うようになったものです。
安酒で次の日辛くなったり、スナック菓子やミネラルウォーターに何千円も御代を出すより、中身のしっかりしたお酒や料理にお会計を使うほうが満足度があるようになるでしょう。求めているものがその時その時で変化してくるものでしょう。
話題や流行より、まず自分自身が中身について自分の基準を持ち、飲食店の内面について判断する勘所が大事なように感じられます。判断基準は他にあるのでは無く、自分の中になければいけません。
{宇治の特上煎茶。クリアーな苦味が心地よいです。}
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嗜好品の度合いが強く人気があるものと言うと、ワイン・コーヒー・お蕎麦・ラーメンが上位を占めるでしょうか?次いで、お寿司・イタリアン・パン・お菓子類・日本酒などが続くでしょうか?
この中で中毒性があって、麻薬的な要素を含むものは、ワイン・コーヒー・日本酒になりますかね?
そして味よりも薀蓄・講釈が優先して先走りするものは、ワイン・コーヒー・お蕎麦・お寿司というところでしょうか?
自分が巷のお話をお伺してこれらのものは、なぜ口にするものなのに味わいよりも薀蓄・講釈が優先してしまうのか?が、二十代の頃はいつも不思議に思うものでした。
味よりも、その講釈を語ることが楽しいと言うこともあるでしょう。味わいよりも話題・雑学が面白いと言うこともあるでしょう。
ワインとコーヒーは中毒性があるので、どうしても嗜好の度合いが強くなるでしょう。ところが同じく飲料でも日本酒や日本茶はワインやコーヒーに比べ、薀蓄が少なく、講釈を聞かせてくれる方が少ないのはどうしてでしょう?
ワインより日本酒のほうが醸造技術・お酒としての質が高いのに、ワインに話題性が圧倒されているのはどうしてでしょうか?
日本人はコーヒーにはお金を払っても、日本茶にはお金を払わないのはどうしてでしょうか?
ワインに関しては、世界中に生産者、ブローカーが居て、競争原理が世界規模なので、それほどでもない物をとんでもなくすごい物に変えてしまい売買し、売り込み合戦が過熱して、薀蓄・講釈も浸透してワイン業界はご商売がお上手でしょう。消費者を鵜呑みにさせコントロールする術にも長けているでしょう。
自分から見れば、日本酒がお酒類ではもっとも酒質が優れていて、それだけ薀蓄も講釈もあるのにそれが世に出回らないのは、世界市場で見れば生産者消費者が少ないことと売込みが控えめな日本人特有なものでしょう。(そういう自分はここ数年ワインばかりを嗜んでいますが・・・。)
コーヒーもワインと同じく、欧米の売り込み、そして日本人の海外への憧れ、中毒性も相まって、嗜好品の度合いが強いでしょう。
喫茶という部類から見れば、コーヒーは、日本茶・中国茶・紅茶という茶葉文化に比べれば、薀蓄も講釈も凄みもそれほどでもありません。茶葉文化の多様性や変化はコーヒーの比ではないでしょう。(でも自分はここ数年スペシャリティーコーヒーばかり飲んでますが・・・。)
茶葉文化に比べれば、話は半分以下くらいになるでしょう。ところが、なぜコーヒーはそれほど人を惑わせ、日本ではコーヒーが主役として喫茶店が成り立ち日本茶では喫茶店は成り立たないのなぜでしょう?
日本人の国民性としての海外への憧れ、身近な日本文化の良さの理解度の低さ、などもあるでしょう。
お宅でもお店でも、熱いお茶はサービスという習慣が日本人にはなついていることもあるでしょうか?
{音威子府産そば粉と津軽平野産ネバリゴシ小麦で自家製手打ち。冬は夏に比べ少し太めに切りそろえます。のど越しの清涼感より、もっちり感を優先して。そばつゆも少し甘みとコクを多めに仕立てます。}
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お蕎麦の世界なども拝見しているととても楽しいもので、人気は勿論の事、知識も広く浸透しているのがよく分かります。
そば粉の産地はどこだ。そば粉とつなぎの割合はどうだ。ニ八だ。十一だ。返しはどうだ。などなどそば好きの方々の話は尽きないようです。
ある方は「同じ麺類でも、ラーメンやスパゲッティーを食べても、神社仏閣から感じる厳かさや敬虔さは感じないけど、そばを食べると何だか襟を正して控えてしまう・・・。」と言うような意見もお伺いしました。
それ以外にも、「俺はそばにうるさい。」や「おそばって奥が深いですよね~。」「そばって難しいですよね。」などなどと、ご近所でもお伺いいたします。
ところが、日本料理を毎日毎日作っている自分から見れば、「そうなの?」といつも思うものでした。
このことについて自分なんぞが意見を出すことは、面倒になるので、何年も黙っていたのですが、ご自分の感性で料理と向き合える方ならお分かりいただけることと思いますので、ご理解をお願いいたします。
お蕎麦よりも手間も暇も原価もかかって、優れた美味しい料理が沢山あるのにどうしてお蕎麦に関しては、多くの方が恐れおののき、身構えひれ伏すのでしょうか?
自分の経験上、料亭や料理屋で働いている中堅クラスの板前さんであれば、1ヶ月もしないで御蕎麦はすぐ打てるようになるでしょう。
と言うより、お蕎麦もお鮨も天麩羅もうなぎもすき焼きなども日本料理の一部であると言うことをご理解いただいていないようでありますね。
もちろん、お蕎麦もお鮨も天麩羅もうなぎもすき焼きなども、それだけで満足出来る優れた料理です。そして、これらは専門化したほうが美味しくなるのも事実です。このような、和食の一部なのにそこだけを抜粋してもお店が出来るのは日本料理の凄みでもあります。世界の料理でこれほど切り分けられて、お客様を満足させれるジャンルはないでしょう。
{春を呼ぶ八戸えんぶり。更上閣のお庭えんぶり。}
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あるお客様方のお話を伺っていて、片方のお客様が「蕎麦って難しいですよね。すごいですよね!」と言うとその隣の方が「何言ってるの!もともと米取れないから蕎麦を植えてるだけで、米取れれば米付けるでしょう。米取れない痩せた土地の話でしょうが。蕎麦も鮨も和食の一部だし和食の職人に蕎麦打て、鮨握れって言っても出来るだろうけど、蕎麦や鮨屋の職人に割烹屋みたいに、料理作れって言っても出来ないべな!」と・・・。
「うん・・・。」と自分なんかは思いますが、どの業界にもスペシャリストが居りますので、お蕎麦屋さんやお鮨屋さんのトップレベルの職人さんであれば、料理屋の仕事も数年やれば出来ると感じます。
こんなお話をすると、「お蕎麦屋さんやお鮨屋さんを馬鹿にしている!」と感じられる方々も居られるかもしれませんし、そのような批判を受けるのも面倒ですが、何にでも格があり、それを混同されている方も居られるようなので、お伝えしなければいけないことでしょう。
我々の先輩方親方々は、自分のような小僧とは違うので、お店の中や親しい魚屋さんの前では、「和食に比べればお鮨屋さんの仕事は三分の一。」と言いますが、お客様や公の前ではそのような発言はしませんでした。厨房設備を見れば一目瞭然ですが、日本人らしく「他を批判するべきではない。」という職人気質もありましたし、その当時のお客様方はそんな事を言わなくてもご理解いただいていたものでした。元はジャパニーズファーストフードですから、当たり前の事でした。
それがいつの頃からか、まるで別物扱いされ、料理屋より鮨屋が上。お蕎麦には驚き、日本料理には沈黙。という現象が起き始めました。これは、料理屋・割烹屋の怠慢から来たもののように自分は感じます。
もっと、料理屋・割烹屋の人間もお客様に日本料理のすばらしさ、料理屋・割烹屋の凄味を伝えるべきであったと思います。もちろん、料理屋の職人は朝早くから夜中まで厨房に閉じこもりで、料理を作り時間も手間も神経も取られそれどころではありません。けれども、それでは今のご時勢は取り残されてしまうでしょう。職人も早く厨房から少しでも抜け出し、お客様・社会と接する時間も作らなければいけません。
料理屋の職人が朝早く7時~8時から厨房で黙々と料理作りをし、飯も休憩も取らずに夜は11時~12時まで働いていることもちょくちょくあることを知らない一般の方々も増えてきました。物作りがご理解いただけない社会になった来ました。
ですから、我々料理屋・割烹屋のものが、もっと布教活動をしなければいけません。
{陸奥湾産ホタテの卵と白子。この時期限定の珍味。}
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お蕎麦・ワイン・コーヒーは、布教活動が進んでいます。
‘鮨屋の頑固、蕎麦屋の偏屈、天麩羅屋の変わり者’と評される通り、頑固親父がべらべらお客様の前で薀蓄を語るはずはありません。蕎麦屋さんの旦那がお客様一人ひとりに、お蕎麦の知識・雑学などを手解きしたとは思えません。
これはひとえに、週刊誌・グルメ記事・テレビ・マスコミ・編集者・評論家さんなどの努力でしょう。その業界の方々は、売れなければ仕事にならないので、一番売れ筋のジャンルを選び、薀蓄・歴史も調べ、見栄えいい写真を撮り、一般受けするお店を選び揃え編集し売り出します。
日本料理やフレンチは多種多様で本職ではない方々には理解しづらく、また今の景気ですと少々高くつくので一般受けしなく、取り上げにくいでしょう。消費者には単純で分かりやすいジャンルをピックアップするし、記事にする方も日本料理やフレンチの多岐にわたる料理は理解はできないでしょう。
ですから、本業の者しか感じたり体得出来ないものは、示されることはありません。本業の者の様に深く広くえぐった話は出来ません。
その為、皆様がネットや雑誌で手軽にまかなえる知識をひけらかすのは危険が伴うので、少々お気を付けください。
料亭料理・割烹料理より、手打ち蕎麦やお鮨のほうが食べる前から「凄い!」という現象がおきています。
それでは、イタリアンを食べに行って、生パスタが出てきて、「パスタも作れるのですか?凄いですね!」と言うでしょうか?ケーキ屋さんのショーケースの中に手間も原価もかかったケーキが並んであるのにお隣のおまけみたいなクロワッサンやコロネを見て「パンも作れるんですか?凄いですね!」と言うでしょうか?和菓子屋さんの綺麗な季節季節の細工が施した可憐な生菓子を眺めてから隣のどら焼きを見て「どら焼きも作れるんですか?凄いですね!」と言うでしょうか?そのような部分はあまり雑誌がテレビが取り上げないので、逆転劇は起きておりません。
多くの皆様は、書店で並んでいる雑誌・グルメガイドの文章・写真、テレビの評論家・タレントさん方の言葉・映像に洗脳されてしまっているのではないか?と感じます。
ですから皆様方、映像・文章が頭にインプットされていますので、召し上がる前に薀蓄・講釈が優先して、純粋な感性でお料理を召し上がっておられないのではないかと思われます。
ワインやコーヒーにも同じ事が言えるでしょう。
日本料理屋、日本酒屋さん、日本茶屋さんなどなど、特に現代人が灯台下暗しで評価がしにくい分野の物は、もっともっと布教活動をして、お客様皆様に和文化を広く深く親しんでいただき、楽しんでいただけるよう努力しなければいけないものです。
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{雪は多くの恵みをもたらします。今シーズンもテレビでは雪のマイナス要素ばかりを露出させてますが、美しい風景や大量の水資源や美味しい食材を育みます。津軽平野の雪景色をご覧にお出でください。}
by tk-mirai | 2013-03-01 19:16 | Comments(0)

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