夏が旬の貝類

{陸奥湾特産フジツボ}
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我々飲食業界、主に日本料理屋・寿司屋さんの間で、このうだるような暑さの夏の時期にほとんど魚介類が水揚げされない、食材が乏しいと思う時期があるようです。
これを業界用語で‘夏枯れ’といい魚介類が少ない地方で日本料理屋・寿司屋さんを為さっている所は「刺身を何にしよう?」「焼き魚・煮魚を何にしよう?」と仕入れの時にしばしば考えあぐねるものでしょう。
あまり魚介類を利用しないフレンチ・イタリアン・中華屋さんなどは、「魚無いなぁ~!」とお悩みになることは無いので、あまりこの話題はご興味をお持ちに成らないかも知れません。その代わり年中同じようなメニューに成りがちで、どこのお店も際立った差が無くなるので、‘他店とのお店の特色の出し方’その辺のお悩みは和食以上とご推測いたします。
これまで料理本の歴史上、関東・関西を中心に多くの食材や料理が紹介されてきたもので、各地方に特色ある豊かな食文化が存在していてもあまり注目される事なく、しかも地方の営業・宣伝・商売・競争原理の働かないものも相まって、美味しい地方料理・地方食材が知られていない事が随分あったことでしょう。
料理も歴史も同じく、現代人は先人が文章で残してくれたものでしか勉強は出来ないし、その当時を憶測したり、偲ぶ事ぐらいしか出来ません。その為、教科書や歴史本に洗脳されがちで、しかもそれに頼りがちになってしまうことが多々あるようです。
ところが、それが事実とも証明は出来ないし、その歴史本以外の地方を知ることは困難な事で、現代人の過去の情報量は極端に少ないものと言わざるを得ません。
{天然生簀の陸奥湾のホタテ。}
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自分も多くの料理本から学ばせていただきましたが、青森という土地に生まれ育って、その豊かな食文化で育まれて来たものなので、料理本・料理雑誌を拝見しているといささか疑問に思う事が多くあったものです。
それは多くの料理本が関東・関西を中心でしか示されていないので、環境の違う青森にいれば致し方ない無い事でしょうが、料理本は「地方を知らな過ぎる。」と思うものです。勿論、関東・関西の宣伝目的で出版しているわけですが・・・。
日本海・太平洋・陸奥湾・津軽海峡と四つの海を擁する青森でも魚介類が少ない時期はあるにはありますが料理本、都市部のお客様や飲食業界の方々、魚屋さんが言うほど青森では‘夏枯れ’は御座いません。
勿論、この暑い最中です、魚さん達も水温が高い浅瀬には近づかず深場に潜るので漁業量が少ないのは当たり前のことでしょう。
でも、青森には有る物ですね。
料理の教科書に示されている夏の食材のお話の一つに、「夏で唯一美味しい貝は鮑」と成っている事が多いものです。
その為、どの本・雑誌を見ても夏料理に決まって‘水貝’が登場いたします。
若い頃は「水貝って名の貝がいるのかな?」と本を見ながらよく思ったものですが、料理名であって、貝の名ではない事に気付き、夏場は貝と言えば鮑と決まっているらしく、その様に料理名が付いたようです。
鮑に塩をかませ、たわしで磨くと鮑が硬くなり、それを貝から外し、コロコロッと切り、クリスタルの切子の器に氷をいれ、鮑とキュウリなどの野菜を入れ、そのまま食べたり鮑の肝醤油で勧めたりとするのが料理屋さんでよく見かけるものです。
それはそれで勿論美味しいものですが、‘夏の貝は鮑だけ’というのは食文化としてはちょっと寂しいものでしょう。
{下北のエゾ鮑。鮑も雌が柔らかで美味しく、肝が黄色身帯びたものが雌です。}
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夏真っ盛りの青森では、勿論鮑(エゾ鮑。柔らかな身質で雪国に多い)も美味しいです。それから、日本海側のサザエ、岩牡蠣。岩牡蠣は、今では3人に1人の方は食べませんので、当店ではお出ししませんが、夏の日本海側の岩牡蠣の美味しさは殻牡蠣の比ではありませんね。
それから何と言っても、鮑・サザエ・岩牡蠣の夏の御三家以上に美味しいのが、天然の生簀、陸奥湾のホタテと陸奥湾特産のフジツボ、そして‘黒いダイヤ’の異名を持つ十三湖の蜆貝。しかも、年に数回しか漁が許されない普段は禁猟区の岩木川水系の大和蜆が絶品です。(ちなみに太平洋側の小川原湖でも蜆は獲れます。)
自分は普段から「鮑よりホタテの方が味は勝る。ただ、ホタテは旅が難しいので東京に陸奥湾の美味しいホタテが無いから評価されていないだけ。」と思っているし、機会があればお客様にも伝えております。
フジツボは、天然生簀陸奥湾の特殊な環境が作り出す‘これぞ珍味中の珍味’と言うものです。
味わいは、ウニと海老を合わせた様な味でありながら、くどくなく繊細で旨み充分。スープは他の食材では表現できない旨みがあります。
十三湖の禁猟区、岩木川系の汽水域の蜆は、毎年夏の数回だけ市場に出てくる‘超レア物’。
比べるのはおかしいけども、世界一高値の赤ワイン・DRCロマネコンティより稀少でしょう。
所謂、ワインで言うテロワール(その土地の気候・風土・土壌)が作り出す自然芸術蜆です。
毎年、魚屋さんに登場するのを楽しみにしていて、でる前から担当の魚屋さんに「そろそろ出る。岩木川系?」と声を掛け、でた時は居の一番に買い付けるものです。
蜆だけに、しみじみと旨い。エレガントで繊細。コクがあって清らか。濃厚にして繊細。優雅でありながら落ち着いた味わいは、夏場の汁物の女王と言えるでしょう。
青森県は、西は津軽の十三湖と東は南部の小川原湖で蜆が獲れる一大産地で、特に津軽ではこの時期午前中から「しじみか~い、蜆貝。しじみか~い、蜆。獲れたての十三湖の蜆はいかがですか?しじみか~い、蜆・・・。」と軽トラックで売り歩く姿も見られ夏場に十三湖の蜆を食べるのが食文化の一つでもあります。そして余談ですが、蜆売りと一緒に「あま~い、スイカにメロンはいかがですか?屏風山のスイカにメロン。あま~い、スイカにメロンはいかがですか?・・・。」というスイカ売りの軽トラも住宅街を流しており、次から次から食べるのに忙しい夏であります。
{禁猟区岩木川系汽水域の蜆。貝自体が艶よく、他の蜆より黄金色を帯びる。}
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青森の蜆汁の作り方は、昆布と水だけの塩ベースの味付けで、貝特有の磯臭みを消す香り程度に白味噌を入れます。これが一番蜆の出汁を美味しく食べれるコツだと思います。旨みが強すぎたときは薄めの鰹出汁を加える事もあります。
関東や関西では、味付けは味噌だけの物が多く、赤出汁の蜆汁などをよく見かけるものですが「こうしないと美味しくない蜆なのかな?」と毎度思うものです。
十三湖湖畔には名物‘蜆ラーメン’もあり、これはまるっきり塩味のラーメンです。
それだけ、十三湖の蜆は味が美味しいので、調味料勝ちの味付けにする必要が無いのでしょう。
十三湖近辺の郷土料理には、夏が旬の山菜の‘みず’と蜆を一緒に炒めた‘みずと蜆の炒め物’という、料理屋料理には無い夏のご馳走が存在いたします。
その他、青森では‘夏枯れ’とはあまり無縁なのか、貝類以外に鯒・ホウボウ・笠子・ホヤ・夏鮪・マイカ・ウニなどなど、野菜類は嶽のトウモロコシ・枝豆・ササギ・茄子・トマト・キュウリなどなど、果物も岩木山麓のツガリアンメロン・スイカ・桃・ブルーベリー・プラムなどなど食べきれない食材が次から次から出て来ます。
「金は常に無いけど、青森でいがったなぁ~・・・。」といつも思うものです。
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{もう少しで世界の火祭り‘ねぶた’が始まります。こちらは昼運行。}

ヤフーブログ‘食の桃源郷 青森’もご覧下さい。
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by tk-mirai | 2010-07-21 14:47 | Comments(0)

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